世界の派遣市場

各国の派遣制度や市場の特徴を比較・解説します。

更新日:2026.06.23

1. 各地域の派遣業界の特徴

アメリカ

アメリカでは派遣業界は「Staffing Industry(スタッフィング産業)」と呼ばれ、人材派遣(Temporary Staffing)をはじめ、契約社員サービス(Contract Staffing)、人材紹介(Recruiting)、採用代行(RPO:Recruitment Process Outsourcing)等を含む幅広い人材サービス産業として発展しています。

・業界の特徴
IT、エンジニアリング、医療、会計等の専門職分野での活用が多く、企業はプロジェクト単位の人材確保や正社員採用を前提とした適性評価(Temp-to-Hire)の手段として利用しています。また、日本の労働者派遣法のような単一の包括的な派遣法はなく、連邦法および州法の労働関連法令(賃金、差別禁止、安全衛生等)によって規制されています。

主な企業
・ManpowerGroup
・Randstad USA
・Robert Half

派遣が合法か/原則禁止か

アメリカでは、20世紀前半に民間職業紹介や臨時雇用サービスが発展し、派遣労働の仕組みが形成されました。現在では、派遣労働は合法的な雇用形態として認められており、派遣元と派遣先の責任分担についても法制度や行政ガイドラインの中で整理されています。また、派遣元が人種・皮膚の色・宗教・性別等を指定する差別的な求人を取り扱うことは、連邦法上禁止されました。

派遣労働者数

■アメリカ全体の派遣労働者数と割合
アメリカにおける全就業者数と、派遣労働者が占める規模感は以下の通りです(2023年時点)。
全就業者数:約1億5,750万人
派遣労働者数:約95万人
全就業者に占める派遣労働者の割合:約0.6%

※派遣労働者が全労働人口に占める割合は、州の産業構造等によって偏りがあります。

参考文献

・BLS「Contingent and Alternative Employment Arrangements News Release」© BLS, [2026年6月22日] 当社にて翻訳し、一部加工のうえ掲載。翻訳・加工は当社責任、原文との相違がある場合は原文を優先。

制度の目的(柔軟性/雇用保護)

アメリカの人材派遣は、企業が必要な時期や業務に応じて労働力を確保できる雇用サービスとして発展してきました。アメリカには、日本の労働者派遣法のような包括的な派遣法は存在せず、派遣労働に関する統一的な法制度も設けられていません。州によっては人材派遣事業に対する許可制や登録制を採用している場合がありますが、制度内容は州ごとに異なります。

■アメリカの人材派遣の主な目的
・柔軟な人材確保
企業は業務量の変動や短期的な人材需要に応じて労働力を確保することができます。季節的な需要増加やプロジェクト業務への対応手段として利用されています。
・専門性が高い労働力の確保
IT、エンジニアリング、医療、会計等専門性の高い分野でも活用されています。必要なスキルをもつ人材を必要な期間だけ活用できる仕組みとして利用されています。
・採用手段としての活用
・「Temp-to-Hire(Temp-to-Perm)」と呼ばれる仕組みでは、派遣就業後に企業が直接雇用へ移行する場合があります。企業と労働者が就業を通じて適性や業務内容を確認する機会として利用されています。

参考文献

・「請負・派遣:アメリカ 人材ビジネス最前線」(独立行政法人 労働政策研究・研修機構)を加工して作成(2026年6月22日に利用)
・「Works Report 2018 米国の人材ビジネス」(リクルートワークス研究所)を加工して作成(2026年6月22日に利用)

利用目的(短期補充/専門人材など)

アメリカの企業が人材派遣会社を利用する理由の一つとして、状況に合わせて人員を自由にコントロールできる「柔軟さ」があります。派遣会社を利用すれば、数カ月から数年にわたり、繁忙期でも十分な派遣労働者を確保することが可能です。短期雇用だけでなく直接雇用への登用を前提とした派遣等、変化するニーズに合わせて調整ができるため、派遣先にとって強力な経営戦略となる可能性があります。また、特定のスキルを持つ最適な候補者を素早く見つけやすくなるため、採用にかかる時間を節約でき、状況に応じた柔軟な人員配置も容易になります。

また直接雇用の従業員に比べて、派遣労働者に対しては自社から直接の福利厚生費用を支給する必要がないほか、採用にかかる固定費等の間接的コストを抑えられるため、派遣先は余剰な人件費や手間を省き、全体の雇用効率を高めることができます。

EU

EUでは派遣労働(Temporary Agency Work)は法的に認められた雇用形態であり、派遣元・派遣労働者・派遣先(利用企業)による三者関係で成り立っています。制度の詳細は加盟国ごとに異なりますが、EU派遣労働指令が共通の枠組みとなっています。

・業界の特徴
EUでは労働市場の柔軟性と労働者保護の両立が重視されています。EU派遣労働指令では原則として、派遣先で同じ業務に従事する労働者と同等の基本的な労働条件(賃金、労働時間、休暇等)を適用する均等待遇原則が定められています。一方で、派遣期間の上限や労働協約の適用方法等は加盟国ごとに異なり、ドイツやフランス等では独自の追加規制が設けられています。

・市場規模
EUでは約420万人が派遣元を通じて就業しており、雇用者全体の約2.5%を占めています。

主な企業
・Randstad (オランダ)
・Adecco Group (スイス)
・House of HR (ベルギー)

派遣が合法か/原則禁止か

EUでは、企業や労働者に就業機会を提供することを目的にした派遣労働は、原則として禁止されていません。しかし、禁止事項や制限が定められています。

派遣労働を規制する指令案は1982年に初めて提起されたものの、10年以上にわたり実現には至っていませんでした。しかし、1995年に欧州委員会は派遣労働に関する協議を開始し、2008年に「労働者派遣指令」を採択しました。派遣労働者の保護と派遣労働の質の向上に関する共通ルールを定めました。これを受けて、加盟各国では2009年以降、国内法の整備や制度改正が進められてきました。
さらに、派遣労働者に対する規制は、労働者保護や安全衛生等の公益的な理由がある場合に限って正当化されるとされており、合理性の乏しい規制については見直しや撤廃が求められる場合があります。

主な利用業界

欧州委員会の調査(2024年)によると、臨時雇用(有期契約や派遣労働等)は、サービス・販売職および単純作業職により強く集中している傾向があります。 サービス・販売職は臨時雇用の21.5%を占めており、非臨時雇用(期間の定めのない常用雇用等)の15.5%より高い割合となっています。
また、単純作業職は臨時雇用では15.3%であるのに対し、非臨時雇用では7.4%にとどまっています。
一方で、管理職(managers)は臨時雇用では1.3%と非常に小さい割合であり、非臨時雇用の5.8%と比べて大幅に低い数値です。

臨時雇用労働者の職種別内訳は以下の通りです。
専門職:21.6%(科学者、エンジニア、教育専門職、医療専門職等)
サービス・販売職:21.5%(小売業、飲食業、観光業等)
単純作業職:15.3%(清掃、梱包、軽作業、単純な配送等)

参考文献

・European comission「Temporary and permanent employment- statistics」© European Union, [2026年6月22日] 当社にて翻訳し、一部加工のうえ掲載。翻訳・加工は当社責任、原文との相違がある場合は原文を優先。

派遣労働者数

■EU全体の派遣労働者数と割合
欧州連合(EU)における全就業者数と、派遣労働者が占める規模感は以下の通りです(2024年時点)。
・全就業者数:約2億842万人
・派遣労働者数:約480万人
・全就業者に占める派遣労働者の割合:約2.3%

■加盟国ごとの派遣労働者の比率と格差
派遣労働者が就業者全体に占める割合には、国によって大きな差があります。
<派遣労働者の割合が高い国(上位)>
・ラトビア:約7.3%
・アイルランド:約6.0%
・スロバキア:約5.9%
・スロベニア:約5.8%

<派遣労働者の割合が低い国(1%未満)>
・ハンガリー:約0.5%
・ルーマニア:約0.5%
・ポーランド:約0.5%

参考文献

・Eurostat「Temporary and permanent employment - statistics」© European Union, [2026年6月22日] 当社にて翻訳し、一部加工のうえ掲載。翻訳・加工は当社責任、原文との相違がある場合は原文を優先。

制度の目的(柔軟性/雇用保護)

EUの人材派遣は、労働者に柔軟な就業機会を提供するとともに、派遣労働者の保護を確保することを目的としています。
EUでは、2008年に制定された派遣労働指令(Directive 2008/104/EC)を共通ルールとしており、加盟国はこの指令に基づいて制度を整備しています。派遣元、派遣労働者、派遣先による三者関係を前提としながら、派遣労働者の権利保護と労働市場の柔軟性の両立を図ることが求められています。

■EU派遣制度の主な目的
・柔軟な就業機会の提供
派遣労働は、企業の人材需要に対応するとともに、労働者に就業機会を提供する手段として位置付けられています。
・派遣労働者の保護
EU派遣労働指令では、派遣労働者が派遣先の同等業務に従事する直接雇用労働者と同等の基本的労働条件を受けられるよう、均等待遇原則が定められています。
・労働市場の適正な運営
EU加盟国に対し、派遣労働者の保護、公正な競争の確保および派遣事業の適正な運営を図ることが求められています。また、EU加盟国は派遣労働の利用に対する制限や禁止措置について、その必要性を定期的に見直すことが求められています。
・直接雇用への機会確保
派遣労働者が派遣先の求人情報へアクセスできることや、派遣終了後の直接雇用を妨げる契約上の制限を設けないことが求められています。

利用目的(短期補充/専門人材など)

EU労働者派遣指令では労働者派遣について、企業の柔軟性と従業員の仕事・私生活の両立というニーズにこたえ、雇用創出、労働市場への参加・統合に貢献するものだと位置づけています。

アジア

日本のような登録型の労働者派遣制度が広く普及している国は限られており、労働者派遣に関する制度や規制は国ごとに異なります。

・業界の特徴
アジアにおける派遣・人材業界は以下のような特徴があります。
-労働者派遣に関する制度や規制内容が国ごとに異なること
-経済成長に伴い企業の人材需要が拡大していること
-海外での就労を支援する人材サービスが展開されていること

派遣が合法か/原則禁止か

アジアでは、日本のように「派遣元と労働者が雇用契約を結び、派遣先の指揮命令の下で働く」という労働者派遣制度が認められている国がある一方、制度の利用を厳しく制限している国もあります。また、認められている国であっても、派遣可能な業務や利用条件が法令で定められている場合があります。

■利用が認められている例
(1)中国
・「労務派遣(Labor Dispatch)」制度が認められていますが、通常の雇用を補完する例外的制度として位置付けられています。労働者派遣は認められていますが、臨時的業務・補助的業務・代替的業務に限定されています。
(2)インド
日本型の労働者派遣とは異なり、請負・外部労働供給に近い制度ですが、企業が第三者事業者を通じて労働者を利用すること自体は認められています。
ただし、政府は特定の業務について契約労働の利用を禁止できる場合があります。
(3)インドネシア
派遣労働(alih daya)は、オムニバス法と、その実施規則であるオムニバス政令において定められています。

■利用が厳しく制限されている例
・フィリピン
フィリピンでは、「Labor-Only Contracting(労働力のみの請負)」は禁止されています。これは請負会社が実質的な事業能力を持たず、労働者の供給のみを行う形態を指しています。
一方で、一定の要件を満たした独立した請負・委託(Contracting/Subcontracting)自体は禁止されていません。日本の労働者派遣のように派遣先が労働者へ直接指揮命令を行う仕組みとは制度が異なります。

制度の目的(柔軟性/雇用保護)

労働者派遣制度は、企業にとってはより柔軟な雇用体制の構築を可能にし、労働者にとっては多様な就業機会を得るために利用されています。ただし、各国の状況は異なります。

(1)韓国
・「労働市場の柔軟化」「雇用調整」を目的として労働者派遣制度が導入されています。近年は正規労働者と非正規労働者間の待遇格差が問題視されており、非正規労働者の保護や不合理な差別を禁止するよう法制度が整備されています。

(2)ベトナム
・「一時的な労働力の需要増加」、「休職者の代替」、「高度専門人材の確保」等の目的で、労働者派遣が認められています。

利用目的(短期補充/専門人材など)

(1)中国
中国では、派遣労働者が従事できる業務を「一時的・補助的・代替的」な業務に限定しています。そのため、一時的な人員不足への対応や本業ではない補助的業務、欠員対応等で利用される傾向があります。

(2)インド
有期雇用は、雇用終了時の法的リスクを抑える手段として利用される場合があります。インドでは、一定規模以上の事業所において解雇規制が厳しい場合があり、契約期間満了により雇用関係を終了できる有期雇用が利用されることがあります。

(3)インドネシア
インドと同様に、解雇時の法的負担を抑える目的で利用されることがあります。
インドネシアでは、解雇時に退職金等の支払いが必要となる場合があります。
有期雇用労働者、業務委託、派遣労働者等は、無期雇用と比べて雇用終了時の取り扱いが異なるため、企業が人員調整や労務管理の観点から利用する場合があります。

2. 派遣労働者の特徴

アメリカ

派遣労働者の属性

■アメリカの派遣労働者の傾向
年齢:派遣労働者は25~34歳の派遣労働者の割合が高い傾向があります。
収入・待遇:常用雇用労働者と比較して、平均賃金が低い傾向にあることが報告されています。
学歴:大卒以上の層よりも、高卒以下の層で非正規労働に従事する割合が高い傾向があります。
性別:男女の比率は同程度です。

参考文献

・BLS「Contingent and Alternative Employment Arrangements Summary」© BLS, [2026年6月22日] 当社にて翻訳し、一部加工のうえ掲載。翻訳・加工は当社責任、原文との相違がある場合は原文を優先。

アジア

派遣労働者の属性

■アジア地域の派遣労働者の傾向
アジア全域を対象とした統計データはなく、派遣労働者の属性や労働市場の状況は国ごとに異なります。

(1)中国
年齢:平均年齢は約31歳程度です。
移動労働者の傾向:派遣労働者のには、農村部から都市部へ移動した出稼ぎ労働者が多い傾向にあります。

(2)インド
年齢:30歳以下の派遣労働者の割合が高い傾向があります。
性別:派遣労働に限らず、インドでは女性の労働力率が低い傾向があります。その背景として、女性の就労に関する社会的・文化的要因が指摘されています。
外国人労働者の状況:国内の労働力は極めて豊富であるため、外国人労働者の流入は限定的です。

3. 各国特有の制度・雇用文化

アメリカ

アメリカには、日本の労働者派遣法のように派遣労働を包括的に規制する連邦法がありません。そのため、派遣労働者には公正労働基準法(FLSA)をはじめとする一般の労働法が適用されます。アメリカの派遣労働規制は、日本のように業務制限や派遣期間制限等によって「派遣」という働き方そのものを規制する仕組みではなく、派遣労働者の労働条件や権利保護を重視する構造です。
また、アメリカでは派遣元(staffing agency)だけでなく、派遣先(host employer)も「共同使用者(joint employer)」として法的責任を負う場合があります。派遣先が実際に労働者を指揮・管理している場合には、派遣先も、労働法上の義務や責任を負う可能性があります。
なお、アメリカでは州ごとに労働法制が異なるため、州法によって追加的な規制や労働者保護が設けられている場合があります。

主な雇用形態とその特徴

■主な雇用・契約形態の例
アメリカでは、人材サービスの形態が比較的明確に区分されています。

Temporary Staffing(労働者派遣)
日本の労働者派遣に相当する形態です。派遣労働者は派遣元に雇用され、派遣先で勤務し、派遣元から給与が支払われます。契約期間は短い傾向にあります。
なお、専門職向けの派遣については「Contract Staffing」と呼ばれることがあります。これは主にファイナンス、IT、M&A等の高度な専門性を有する職種を対象とするもので、契約期間は比較的長い場合があります。

Temp-to-Hire/Temp-to-Perm(紹介予定派遣)
派遣先による直接雇用を前提とした形態です。労働者は、一定期間派遣労働者として就業します。その後、派遣先と本人の双方が合意した場合に、社員として採用されます。派遣期間中は、労働者にとっては職場との適性を確認する機会となり、企業にとっては採用前に能力や適性を見極める期間となります。

Direct Hire(人材紹介)
日本の人材紹介に相当する形態です。人材会社が採用候補者を紹介し、採用が決定した場合には企業と求職者が直接雇用契約を締結します。
人材会社は紹介サービスを提供し、採用成立時に紹介手数料を受け取ります。

Independent contractors(独立請負)
人材派遣企業が労働者を雇用するのではなく、特定の専門技術を有する労働者と請負契約を結び、派遣する形態です。この場合、独立請負労働者と契約する企業は、健康保険、年金、労災保険等の支払いを免除されます。
アメリカには、日本の労働者派遣法のように派遣労働を包括的に規制する法規制が存在せず、「派遣」に関する統一的な法的定義もありません。そのため、派遣・請負の区別は日本のように明確ではありません。
例えば、一つの企業や工場に大量の派遣労働者を就労させている派遣元のほとんどが、現場に自社の管理者を配置し、労働者の管理を行っているケースがあります。日本では「請負」の範疇に属するものが、「派遣」として取り扱われる場合も多いです。

参考文献

・「米国人材ビジネス」(リクルートワークス)(2026年6月22日に利用)
・「人材ビジネス最前線(フォーカス2005年1月)」(独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT))を加工して作成(2026年6月22日に利用)

指揮命令関係

アメリカの派遣労働では、派遣元が労働者を雇用し、派遣先の指揮監督の下で業務に従事する仕組みです。
派遣元は、賃金・給与、失業、労働者補償に関する事項について責任を負います。一方で、派遣先と派遣労働者の間には指揮・命令関係があります。

■雇用関係における特徴
アメリカの派遣労働では、以下のような関係が成立しています。
(1)派遣元と労働者の間には雇用・労使関係がある
(2)派遣先と派遣労働者の間には指揮・命令関係がある
    ※法令や事案によっては共同使用者(Joint Employer)と判断される場合がある
(3)派遣元と派遣先の間では派遣サービスに関する契約が締結される
(4)派遣元は派遣料金を原資として派遣労働者へ賃金を支払う
(5)派遣労働者は一般的に派遣先の就業案件を受諾または拒否することができる

■日本との比較
日本の人材派遣業に相当するものは、アメリカでは「Temporary Staffing(労働者派遣)」として、人的供給サービスの一区分に分類されています。

雇用主体(派遣元固定か)

アメリカでは通常、派遣元が派遣労働者の直接の雇用主となります。 一方で、派遣元と派遣先の双方が、賃金、労働時間、採用・解雇、業務上の指揮監督といった重要な労働条件について共同で決定している場合、または実質的にこれらを支配・管理している場合には、両者が共同雇用主(Joint Employer)と判断されることがあります。
共同雇用主と判断された場合、派遣元だけでなく派遣先も、労働法上の義務や責任を負う可能性があります。
また、共同雇用主として認定された事業者が、労働条件について一定の支配または決定権限を有すると認められる場合には、労働組合との団体交渉に関与する義務が生じることがあります。

許可制の有無

アメリカでは、連邦法レベルで労働者派遣事業に対する統一的な許可制度は設けられていないため、原則として連邦政府の許可を受けることなく事業を運営できます。一方で、州法により許可制・登録制・届出制等を設けている州もあります。 ただし、日本のように全国一律の許可制度や包括的な規制は設けられていません。

2022年時点では、事業者に対して許可制を採用している州としてマサチューセッツ州があります。
また、ニュージャージー州では登録制、ノースカロライナ州では届出制が採用されています。

参考文献

・「米国人材ビジネス 02 人材ビジネスの関連法規と規制」(リクルートワークス)を加工して作成(2026年6月22日に利用)

同一労働同一賃金の有無

アメリカの平等賃金法(The Equal Pay Act of 1963)では、雇用主に対し、同じ職場において実質的に同一の業務を行う男女に対して、同等の賃金を支払うことが義務付けられています。
さらに、EEOC(雇用機会均等委員会)が執行するその他の法律では、人種、肌の色、宗教、性別(妊娠、性自認、性的指向を含む)、出身国、年齢(40歳以上)、障害、または遺伝情報に基づく賃金差別が禁止されています。

これらの連邦法に加え、州ごとにも独自の規制が設けられています。
例えば、ニュージャージー州では2023年に施行された「派遣労働者権利章典(Temporary Workers Bill of Rights)」により、特定の業種において、派遣労働者に対し派遣先の労働者(同等の業務を行う者)と同等の賃金および福利厚生を提供することが義務付けられています。
また、イリノイ州では、同一の派遣先において12カ月間に720時間以上の労働を行った派遣労働者について、同様の職務に従事する直接雇用の従業員と同一の賃金を支払うことが義務付けられています。

参考文献

・U.S. Equal Employment Opportunity Commission (EEOC)「Pay Discrimination」© EEOC, [2026年6月22日] 当社にて翻訳し、一部加工のうえ掲載。翻訳・加工は当社責任、原文との相違がある場合は原文を優先。

派遣料金の決定方法

アメリカにおける連邦最低賃金は時給7.25ドルです(2025年6月時点)。ただし、各州や市、郡等が独自にこれより高い最低賃金を定めている場合もあります。労働者に州法と連邦法の両方が適用される場合は、金額が高い方の最低賃金が適用されます。

アメリカの派遣会社では、労働者の賃金は地域の労働需給や職種ごとの市場相場、求められるスキルや経験の水準などを踏まえて決定されることが一般的です。また、派遣先企業が支払う料金を基準に、法定福利費や運営コスト、派遣会社のマージンなどを考慮したうえで賃金水準が設定されます。

さらに、専門性の高い資格や希少な技能を有する人材、あるいは過去の就業実績によって能力が評価されている人材は、より高い賃金条件を提示される場合があります。

参考文献

・U.S. Department of Labor「Minimum Wage」© U.S. Department of Labor, [2026年6月22日] 当社にて翻訳し、一部加工のうえ掲載。翻訳・加工は当社責任、原文との相違がある場合は原文を優先。

期間制限の有無

アメリカの派遣労働には、最長派遣期間を一律に定める連邦法は存在せず、派遣期間に関する包括的な連邦規制も、原則として設けられていません。契約更新の回数についても、日本のような一律の法定上限はありません。
この背景の一つとして、アメリカでは「随意雇用(at-will employment)」の原則が広く採用されていることが挙げられます。
これは、雇用主と労働者の双方が原則として理由を限定されることなく雇用契約を終了できるという考え方です。このように、アメリカでは正社員を含む雇用全体において、雇用契約の終了に関する法制度や考え方が日本とは異なります。そのため、派遣労働についても、日本のような全国一律の派遣期間規制は導入されていません。

業務制限の有無

アメリカには派遣禁止業務を包括的に定める連邦制度は存在しません。
しかし一部の州では、非熟練の日雇い労働者の派遣や医療分野の労働者派遣事業に関して、独自の規制を設けています。

2022年時点では、16の州および特別区において、看護師派遣を含む医療系労働者派遣事業に対し事業許可の取得を義務付けるとともに、派遣料金に関する規制等が導入されています。派遣料金規制の背景には新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる医療従事者需要の急増があり、一部の派遣元が料金を大幅に引き上げたことを受けて、料金上限を定める法律を制定した州もあります。
例えば、コロンビア特別区(ワシントンD.C.)では、看護師労働者派遣事業を営む事業者に対して許可の取得を義務付けるとともに、100万ドル以上の医療過誤保険および一般賠償責任保険への加入を求めています。

参考文献

・「米国人材ビジネス 02 人材ビジネスの関連法規と規制」(リクルートワークス)を加工して作成(2026年6月22日に利用)

ネガティブ/ポジティブイメージ

アメリカにおける労働者派遣は企業の柔軟な人員配置を可能にし、コスト削減にもつながる手段として活用されています。
派遣先は、業務量の変化に応じて必要な期間だけ人員を確保することができます。派遣労働者にとっても、勤務地や労働時間等の希望に応じて仕事を選びやすく、プライベートとの両立がしやすいという利点があります。

一方で、派遣労働者の安全衛生や適正な賃金支払いに関する課題等が指摘されています。
米国労働安全衛生局(OSHA)は、派遣労働者が危険な業務に従事したり十分な安全教育を受けられなかったりするおそれについて注意喚起し、派遣元と派遣先の双方による安全確保を求めています。
また、米国労働省(U.S. Department of Labor)は、派遣労働者を含む労働者に対する最低賃金や時間外労働手当の適切な支払い等、法令違反の防止を呼びかけています。

規制強化の議論

連邦レベルでの一括した法律がないため、アメリカの派遣・人材ビジネスに対する規制は、各州のルールと一般的な連邦労働法による雇用主義務によって成り立っています。

■連邦レベルの基本構造
アメリカには、派遣業そのものを規制する連邦レベルの法律が存在しません。規制の有無や内容は各州に委ねられています。
また、日本のように派遣禁止業務や派遣期間の制限を設けている州はほぼありません。そのため、建設業を含め、様々な職種で派遣・人材サービスが活用されています。
※ただし、人材ビジネスに特化した法律がないからといって、義務がないわけではありません。通常の雇用主と同様に、派遣元には、連邦法(公正労働基準法、雇用機会均等法、労働安全衛生法等)や内国歳入法(税法)に基づき、最低賃金の保障、残業代の支払い、差別禁止、安全衛生の確保といった義務が包括的に課されています。

■近年における「医療派遣」の規制強化
アメリカでは、人材ビジネス全体としては比較的自由度の高い制度が採用されていますが、近年は医療の質低下を防ぐため、「医療派遣(看護師派遣等)」に対して厳しい規制を導入する州(地域)が増加しています。
例えば、コロンビア特別区では、看護師派遣を行う派遣元に対し、以下のルールを義務付けています。
・事業運営ライセンス(許可)の取得
・100万ドル以上の医療過誤保険および一般責任保険への加入
・看護師や看護助手を「独立労働者(個人事業主)」ではなく、「労働者(従業員)」として法的に明確に分類すること

このように、アメリカの人材ビジネスは各州の裁量と連邦法の枠組みに基づいていますが、医療等の特定分野では地域ごとに厳格な規制が整備されつつあります。

EU

EUでは、「EU派遣労働指令」を共通ルールとし、派遣労働者の均等待遇を基本原則に据えています。その上で、各国で派遣労働者の保護や派遣利用の適正化を目的とした規制が設けられています。

(1)ドイツ
ドイツの派遣労働は、1972年の「労働者派遣法(AÜG)」制定以降、企業の柔軟な人材活用に対応するため、段階的に規制緩和が進められてきました。
一方で、低賃金労働協約の適用や、正規労働者から派遣労働者への置き換え等の問題も指摘されてきました。そのため、2011年以降は、派遣労働者に対する業界別最低賃金の導入や均等待遇原則の強化等、保護措置の拡充が進められています。さらに2017年の法改正では、派遣期間の上限設定や均等待遇原則の強化等、制度の見直しが行われました。

・ストライキの代替としての派遣利用禁止
ドイツでは、ストライキ代替要員として派遣労働者を利用することが禁止されています。従来から、ストライキ中の職場で派遣労働者が就労を拒否する権利は認められていましたが、2017年の法改正により、ストライキ代替としての派遣利用が明確に禁止されました。
・請負契約の濫用防止
ドイツでは、偽装請負や偽装自営を防止するための措置も設けられています。例えば、契約上で「労働者派遣」であることを明示する義務や、派遣労働者本人への通知、事業所委員会への情報提供義務等が定められています。

(2)フランス
フランスでは、1972年に「派遣労働規制法」が成立し、派遣労働に関する法制度が整備され、派遣労働者の権利保護を目的とした規制が導入されました。
また、派遣労働の濫用を防ぐため、派遣利用は原則として「一時的・非恒常的な業務」に限定されています。

・派遣終了手当
フランスには、派遣労働者に対して「派遣終了手当(indemnité de fin de mission)」が支払われる制度があります。派遣先に無期労働契約で採用されなかった場合、派遣労働者には、派遣期間中に支払われた総報酬額の10%以上の手当を受け取る権利があります。
・ストライキの代替としての派遣利用禁止
フランスでは、ストライキ代替要員として派遣労働者を利用することが禁止されています。
・みなし雇用制度
フランスでは、違法な派遣が行われた場合、派遣先と派遣労働者との間に雇用関係が成立したものとみなされる制度があります。例えば認められていない事由による派遣や、同一の職務について期間制限を超えて派遣契約が更新された場合等が対象となります。

主な雇用形態とその特徴

■主な雇用・契約形態の例
ヨーロッパ全体で統一された定義はなく、区分方法や具体的な内容は国ごとに異なります。

(1)ドイツ
ドイツの非正規雇用には、主に以下のような形態があります。
・僅少雇用労働者(ミニジョブ)
パートタイム雇用の一種で、平均月収の上限額があり、その上限額以内の月収で就業している場合、就業者は税金および社会保険料の負担が軽減されます。ただし、使用者には一定の追加負担(社会保険料等)が課されます。
・パートタイム労働者
フルタイム労働者より週の所定労働時間が短い労働者を指します。女性やサービス業界で多くみられる傾向があります。
・有期雇用労働者
・「パートタイム労働・有期雇用契約法」に基づき、雇用契約が特定の期間に限定されている労働者を指します。教育、医療、行政等の社会サービス分野に多く、製造業では比較的少ない傾向があります。
・派遣労働者
日本と同様、派遣元と雇用契約を締結し、派遣労働者として派遣先で働く労働者を指します。製造業で多く見られる傾向がある一方、建設業では制限があります。

(2)フランス
フランスの非正規雇用は、主に以下のような形態があります。
・派遣労働者
日本と同様、派遣元と雇用契約を締結し、派遣労働者として派遣先で働く労働者を指します。自動車、農作物加工、建設業等で男性労働者の比率が高い傾向にあります。
・有期雇用労働者
雇用期間が定められた労働契約の下で就業する労働者を指します。契約期間は、原則として18カ月です。
・見習い
16歳から25歳の若年者を対象とした、雇用形態です。使用者に助成金が支給される期限付きの労働契約を指します。
・パートタイム労働者
法定労働時間(協定時間が法定時間より短い場合は協定時間)より短い時間で働く全ての労働者を指します。
・非賃金労働者
自営業や請負、業務委託等、雇用契約に基づかないで働く労働者を指します。雇用契約に基づく労働とは異なるため、失業保険等一部の雇用保護制度の対象外となる場合があります。

参考文献

・「欧米における非正規雇用の現状と課題」(独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT))を加工して作成(2026年6月22日に利用)

指揮命令関係

ヨーロッパの労働者派遣では、派遣元が労働者と雇用契約を締結し、派遣先の指揮命令の下で労働者が就労する仕組みが採られています。

■雇用関係における特徴
EUでは、派遣労働者に対する均等待遇原則が定められています。派遣先で同等の業務に従事する直接雇用労働者と比較し、基本的な労働条件・雇用条件について、原則として同等の待遇とすることが求められています。
加盟国によっては、EU指令で認められた範囲内で、派遣元との無期雇用契約等の一定の条件を満たす場合に、均等待遇原則の一部について例外が認められることがあります。

■日本との比較
日本の労働者派遣でも、派遣元が労働者を雇用し、派遣先が指揮命令を行うという基本構造は共通しています。一方、EUでは均等待遇原則がEU指令レベルで明確に定められている点が特徴です。加盟国はこの共通指令の方針を国内法に反映していますが、具体的な制度内容や運用は加盟国ごとに異なります。

雇用主体(派遣元固定か)

ヨーロッパでは、派遣労働者は一般的に派遣元と雇用契約を結び、派遣先で就業します。EUの「派遣労働指令(Directive 2008/104/EC)」では、派遣元との雇用契約または雇用関係の下、派遣先で就業する労働者を派遣労働者として定義しています。また派遣労働者については、派遣先で同等の業務に従事する労働者と比較し、原則として同等の労働条件を保証するよう定められています。

(1)ドイツ
派遣労働者は、派遣元との間で継続的な雇用契約を締結します。派遣先で働く間も雇用主は派遣元であり、社会保険等の手続きも派遣元が担います。

(2)フランス
派遣労働者は派遣元と「派遣契約(Contrat de mission)」を締結します。労働者との契約主体は派遣元です。

許可制の有無

EUには、労働者派遣事業に関する統一的な許可制度はありません。
EU派遣労働指令に基づく最低限のルールはありますが、許可制や登録制の導入は各加盟国の判断に委ねられています。

(1)ドイツ
労働者派遣事業を行うには、原則として連邦雇用庁(Bundesagentur für Arbeit)の許可が必要です。

(2)フランス
労働者派遣事業(Travail temporaire)については、行政機関(DREETS)への届出および財務保証が義務付けられています。

同一労働同一賃金の有無

EUでも同一労働同一賃金の考え方が広く採用されています。
1997年から2008年にかけて、EUでは雇用形態に関する「均等待遇原則」が定められ、性別や人種等による差別に加え、パートタイム、有期雇用、派遣労働といった雇用形態を理由とする不利益な取扱いを禁止しています。

(1)フランス
・「労働法典(Code du travail)」において、男女同一(価値)労働同一賃金の原則が定められています。派遣労働者の報酬については、派遣先において同等の職務・職責を担う労働者が試用期間終了後に受け取る報酬額を下回ってはならないとされています。

(2)スイス
男女同一賃金の原則が法律に明記されています。そのため、性別に関わらず同一の労働には同一の賃金を支払うことが義務付けられています。

派遣料金の決定方法

欧州連合(EU)の多くの加盟国では、法定最低賃金が導入されています。
2026年1月時点における主要国の1時間当たりの最低賃金額は、フランスが12.02ユーロ、ドイツが13.90ユーロです。
※フランスでは物価高騰への対策として、2026年6月より時給12.31ユーロへの引き上げが予定されています。

EUでは派遣労働者に対して、原則として派遣先企業の直接雇用労働者と同等の待遇を確保することが求められています。賃金についてもこの原則に基づいて決定されます。

参考文献

・「最低賃金について」(厚生労働省)(2026年6月18日に利用)

期間制限の有無

EUの派遣労働には派遣期間の上限について共通ルールがなく、具体的な制限は国ごとに異なります。
こうした派遣期間の制限は、派遣労働者の保護や、派遣労働による常用雇用の代替を防止することを目的として設けられています。

(1)ドイツ
同一事業所での派遣期間は、原則として最長18か月です。超過した場合は、法令違反と判断される可能性があります。

(2)フランス
同一事業所での派遣期間は、原則として最長18カ月です。超過した場合は、無期労働契約を締結する必要があります。無期労働契約を締結できない場合や次の派遣先が決まっていない場合には、雇用の不安定性を補償する目的で給与総額の10%以上の手当を支払う必要があります。

(3)オランダ
派遣期間の上限は設けられていません。ただし、労働契約や個別ルールによる制約がある場合があります。

(4)スウェーデン
同一事業所での派遣期間は、原則として最長24カ月です。超過した場合は、直接雇用の申込み義務または補償金支払い義務が生じます。

業務制限の有無

EUの派遣労働には、EU指令として共通に禁止されている業務はなく、規制内容は加盟国ごとに異なります。

(1)ドイツ
建設現場への派遣は、一部例外を除き原則禁止されています。これは、建設業では元請業者と複数の下請業者が関与することが多く、労働者保護や社会保険、労働条件の適正管理が複雑になりやすいためとされています。
なお、建設関連企業の事務業務等への派遣は認められています。

(2)イタリア
特定の業務への派遣を一律に禁止する制度はありません。
以前は無期雇用派遣の利用対象業務が法律で限定されていましたが、2015年の法改正により廃止されました。

特有のルール

(1)ドイツ
・解雇保護法(Kündigungsschutzgesetz)
通常、10名を超える従業員を雇用している事業所では、勤続6カ月以上の労働者を解雇する場合、社会的に不当な解雇は無効となります。解雇が認められるのは、労働者の個人的理由または行為に解雇事由がある場合と、緊急の経営上の必要がある場合に限られます。派遣労働者についても、この解雇保護法の対象になります。

(2)フランス
・週35時間労働制
従業員数を問わず全ての企業において、法定労働時間は週で35時間、月間で151.67時間、年間で1,607時間と定められています。週35時間を超える労働については、割増賃金(残業手当)の対象となります。また週の労働時間は最長48時間まで延長できますが、12週連続して44時間を超えてはいけないとされています。これらの規制は、派遣労働者にも同様に適用されます。

(3)イタリア
・全国労働協約(CCNL)による条件決定
全国労働協約(CCNL)に基づき、職務内容に応じて管理職や一般従業員等の等級が定められています。試用期間や最低賃金等の労働条件は、等級ごとに異なります。

ネガティブ/ポジティブイメージ

EUでは「労働者派遣事業」が広く普及しているため、企業はニーズに応じて柔軟に人材を確保することができます。また、「EU運営条約」では、男女の同一(価値)労働同一賃金が定められています。さらにEU指令により、性別、人種、民族的出身、宗教・信条、障害、年齢、性的指向を理由とする雇用差別が包括的に禁止されています。

一方、EU域内では、国ごとの賃金水準や社会保障負担の違いを背景に、賃金水準の高い国の企業が、賃金や社会保障負担の低い国の労働者を利用して人件費を抑える「ソーシャルダンピング」が問題となっていました。これに対応するため、2018年に派遣労働者に関する指令が改正されました。しかし現在でも、賃金水準の低い国に書類上の本社を置きながら、実際には賃金水準の高い国のみで事業を行う「レターボックス・カンパニー(letter-box company)」と呼ばれる違法事業者が存在します。このような事業者への対応は、依然としてEUにおける課題の一つです。

規制強化の議論

EUにおける派遣労働規制の変遷
労働者派遣のルールや労働者の待遇については、1980年代から2010年代にかけて派遣期間の制限や正社員との「均等待遇(格差是正)」の原則を定める等、具体的な規定の整備が進められてきました。

■1980年代から1990年代の制限と待遇
EUにおいて、労働者派遣に関する指令案が初めて提案されたのは1982年です。当時、派遣は「労働力の一時的な減少」や「業務の例外的な増大」等の場合に限定され、派遣期間は原則6カ月が限度とされていました。なお、EUではこの頃から、派遣労働者への社会保険への加入や派遣先の一般労働者との同等賃金が義務付けられていました。
1990年には、派遣を含む非正規労働について、労働条件や社会保障における「均等待遇」が法律で明確に規定されます。併わせて、派遣期間は3年を上限とする更新制限も設けられました。

■2008年 「派遣労働指令」による政治的合意
2000年には、派遣労働に関する労使交渉が開始されました。当初は加盟国間の意見がまとまらず議論が難航したものの、2008年6月に政治的合意が成立し、「派遣労働指令」が定められました。
この指令で、派遣労働者の基本的な労働条件について「派遣労働者と派遣先の労働者の待遇は同等以上でなければならない」という「均等待遇の原則」が確立されました。

■2018年 海外労働者派遣指令の改正・適用拡大
2018年には、海外労働者派遣指令が改正されました。
この改正により、海外派遣労働者の労働時間の上限、休憩や有給休暇、割増率を含む賃金率等に関する最低基準のほか、以下の項目について、受入国の労働法令や、地域・業種ごとに適用される労働協約に従うことが求められました。
・派遣事業者による労働者供給に関する条件
・職場における安全衛生
・妊婦や出産直後の女性、児童・若者等の保護
・男女の均等待遇
この改正では、報酬に関する規則についても平等な適用が義務付けられ、受入国の労働者との「均等賃金」を支払うことが定められました。

アジア

アジア各国では、労働者派遣に関する制度や規制内容が国ごとに異なります。

(1)中国
中国では、柔軟な雇用方法として労働者派遣が利用されてきましたが、雇用主が法的責任を回避するために、労働者派遣が悪用されるケースもありました。
そのため、「中華人民共和国労働契約法」「労務派遣暫定規定」等により、労働者派遣に関する規制が整備されています。

・派遣労働者割合の制限
派遣労働者数は、従業員総数の10%を超えてはならないとされています。
従業員総数には、派遣先と労働契約を締結した労働者数と派遣労働者数の双方が含まれます。
・派遣待機期間中の賃金支払義務
派遣元は派遣労働者と2年以上の固定期間労働契約を締結し、月ごとに労働報酬を支払う必要があります。

(2)インド
インドでは、従来は「派遣労働(規制及び禁止)法(Contract Labour (Regulation and Abolition) Act, 1970)」により規律されていました。現在は、複数の労働法を整理統合した「労働安全衛生及び労働条件法典(Occupational Safety, Health and Working Conditions Code, 2020)」の枠組みに組み込まれています。

・未払い賃金が発生したときの派遣先責任
派遣元が派遣労働者へ賃金を支払わなかった場合、派遣先が未払い分を支払う義務を負います。派遣先が未払い賃金を支払った場合、派遣元に対して費用を請求することができます。

(3)インドネシア
インドネシアでは、「オムニバス法(Job Creation Law No.11/2020)」と「政府規制(Government Regulation No.35/2021)」により、派遣労働(alih daya)が定められています。

・派遣元の義務
派遣元と労働者との間で雇用契約書の締結が必要です。
また、労働条件、契約内容、紛争対応等についての責任は、派遣先ではなく派遣元が負うとされています。
・雇用継続に関する規定
有期雇用契約(PKWT)に基づく派遣労働者については、業務の継続や派遣元に変更が生じた場合に、労働者保護の視点から雇用継続措置が求められます。雇用が継続されない場合には、法令に基づく補償が必要となる場合があります。

主な雇用形態とその特徴

■主な雇用・契約形態
アジア各国では、直接雇用を基本としながら、派遣・有期契約・パートタイム雇用等、様々な雇用形態が存在します。ただし、制度の名称や位置付けは国によって異なります。

(1)中国
中国では、直接雇用が中心であり、労務派遣(派遣労働)は補助的な雇用形態として位置付けられています。
・労働契約(直接雇用):企業と労働者が直接契約を結ぶ一般的な雇用形態
・労務派遣:派遣元と雇用契約を結び、派遣先で就業する雇用形態
・非全日制勤務(パートタイム労働):短時間勤務等のパートタイム労働
・労務契約:業務委託や請負に近い契約形態で、勤務体制や報酬等を柔軟に定めることが可能

(2)インド
インドの雇用形態は、主に直接雇用(有期雇用、無期雇用、パートタイム)と間接雇用(派遣・契約労働等)に分けられます。インドでは解雇に関する労働紛争が多く、容易に解雇できないことから、企業にとって有期雇用のメリットが大きい点が特徴です。

<間接雇用(派遣・契約労働)>
人材供給会社等を通じて契約労働者を受け入れる形態

(3)インドネシア
インドネシアの雇用契約は、主に以下の2種類に分けられます。
・PKWT(有期契約)(Perjanjian Kerja Waktu Tertentu):期間を定めて締結する雇用契約(一定の業務や期間に対して用いる)
・PKWTT(無期契約)(Perjanjian Kerja Waktu Tidak Tertentu):期間の定めのない雇用契約で、日本の直接雇用に近い形態

指揮命令関係

■雇用関係における特徴
(1)中国
派遣労働者は、派遣元との間で労働契約を締結します。派遣先とは労働契約を締結しません。
派遣先が派遣元との間で労働者派遣契約を締結して、派遣労働者を受け入れる仕組みです。
ただし、派遣利用は「臨時的・補助的・代替的業務」に限定される等、利用規制は日本より厳格です。

(2)インドネシア
派遣元と労働者との間で雇用契約書を交わすことが必須とされています。
契約は、有期雇用契約(PKWT)または無期雇用契約(PKWTT)に基づいて締結されます。
労働条件や契約内容等、雇用契約に関する責任は、派遣先ではなく派遣元が負います。

■日本との比較
日本の労働者派遣は、派遣元が派遣労働者を雇用し、派遣労働者が派遣先で就業する仕組みです。中国およびインドネシアは、派遣元が労働者と契約を締結し、派遣先との間に直接の雇用関係が生じない点で日本と共通しています。

雇用主体(派遣元固定か)

アジアの多くの国・地域では、派遣労働者は派遣元と雇用契約を締結し、派遣先で業務を行います。一般に、法律上の雇用主は派遣元です。

(1)中国
・「労務派遣(Labor Dispatch)」制度が採用されています。派遣労働者は派遣元と雇用契約を締結し、派遣先で勤務します。法律上の雇用主は派遣元です。

(2)インド
派遣労働者の直接の雇用主は派遣元であり、雇用主としての責任も原則として派遣元が負います。
一方、職場の安全衛生の確保や福利施設の提供等については、派遣先にも責任があります。
また、派遣元が賃金を支払わない場合、派遣先が不足分の支払義務を負う場合があります。

(3)インドネシア
派遣元と派遣労働者との間で雇用契約書を締結します。労働条件等の契約内容は、雇用契約書、就業規則または労働協約に定めなければなりません。雇用管理に関する責任は、原則として派遣元が負います。

許可制の有無

アジア各国では、労働者派遣事業や人材仲介事業に対する許可・登録制度、規制内容が国ごとに異なります。

(1)中国
・「労務派遣(劳务派遣)」事業を行うためには、行政許可が必要です。主な許可要件として、登録資本金200万元以上、固定事務所の設置、管理制度の整備等が求められています。

(2)インド
1970年請負労働(規制および禁止)法により、請負労働や間接雇用労働に関する規制が設けられています。一定規模以上の事業所等に適用され、契約業者(contractor)には、中央政府または州政府への登録・許可が求められる場合があります。

(3)シンガポール
Ministry of Manpower(シンガポール人材省)が発行する「雇用機関ライセンス(Employment Agency Licence)」の取得が義務付けられています。これは、人材紹介事業や人材仲介事業等にも適用されます。

同一労働同一賃金の有無

(1)中国
中国では、働く派遣労働者に対して、同一労働同一報酬の原則が適用されます。これは、日本の「同一労働同一賃金」と同様に、同一または同等の業務に従事する労働者に対して均衡の取れた待遇を求める考え方です。派遣労働者の報酬は、派遣先で同一の業務に従事する労働者と同等の基準で設定することが求められています。

(2)インド
2019年に賃金や賃金支払いに関する複数の労働法を統合した「賃金法(Code on Wages, 2019)」が制定されました。この法律では、最低賃金制度の整備や性別を理由とした賃金差別の禁止等が定められています。これには、同一または類似の業務に対して均等な賃金を支払う考え方も含まれています。

(3)インドネシア
2020年制定の「雇用創出オムニバス法」により、インドネシアでは雇用制度や労働規制の見直しが行われました。一方で、日本の「同一労働同一賃金」のような制度が明確に規定されているわけではありません。賃金については、最低賃金や労働条件に関する規定を中心に運用されています。

派遣料金の決定方法

賃金決定の仕組みは国ごとに異なります。
(1)中国
中国では、派遣労働者の賃金について平等待遇の原則が採用されており、受入企業で同じ業務に従事する労働者と均衡の取れた賃金水準が求められています。また、受入企業内に比較対象となる労働者が存在しない場合には、同じ地域で類似する職務に従事する労働者の賃金水準を考慮して報酬が決定されます。

(2)シンガポール
雇用契約を結んでいる全ての従業員が対象です。
シンガポールでは全国一律の最低賃金制度は導入されておらず、賃金水準は基本的に労使間の合意によって決定されます。そのため、職種や求められる能力、市場の需給状況などを踏まえながら、雇用主と労働者または労働組合との交渉を通じて賃金条件が設定されます。

期間制限の有無

アジア諸国では、派遣の期間制限を設けない国もあれば、上限を定めている国もあります。

(1)シンガポール
派遣期間そのものに関する法定上限は設けられておらず、有期雇用契約の期間にも法定上限はありません。ただ、必要に応じて期間の延長・更新が可能です。
なお、3カ月以上勤務した等、一定の要件を満たす労働者は、雇用法(Employment Act)に基づき、有給休暇や病気休暇等の法定福利厚生の対象となります。

(2)韓国
派遣可能業務(常時許可業務)において、1回の契約期間は原則1年以内とすることが定められています。ただし派遣元・派遣先・派遣労働者の三者が合意した場合は、1回まで契約を更新可能し最長2年まで就業することが可能です。ただし、欠員等を理由として一時的に派遣を受け入れる場合は、状況に応じて派遣可能期間が変動します。

(3)ベトナム
労働者派遣の期間は原則、最長12カ月と定められています。雇用条件については、派遣先に直接雇用される労働者と同等であることが求められています。

業務制限の有無

アジアの派遣労働には、共通して禁止されている業務はなく、規制内容は国ごとに異なります。

(1)中国
労働者派遣は、「臨時的・補助的・代替的業務」に限定して認められています。
・臨時的業務
期間が6カ月以内の業務を指します。
・補助的業務
企業の主要事業または中核事業を補助する業務を指します。
・代替的業務
常勤従業員が学業、休暇、その他の理由で不在となる期間に、その代替として行う業務を指します。

(2)インド
中核的業務では、契約労働者(派遣労働者等)の就業は原則禁止されています。
※「中核的業務」とは、事業所の主要な事業活動や、その遂行に不可欠な活動を指します。なお、清掃や警備等の一部業務においては、例外的に派遣労働者の就業が認められる場合もあります。

特有のルール

(1)中国
労働者派遣は、通常の直接雇用を補完する制度として位置付けられています。
そのため、派遣労働者の業務は「臨時的・補助的・代替的業務」なものに限定されています。
また、派遣労働者数は、従業員総数の10%を超えてはならないと定められています。

(2)インド
インドでは、日本の労働者派遣制度とは異なり、派遣と請負が明確に区分されていない点が特徴です。
賃金支払義務は派遣元が負いますが、未払いが発生した場合には、派遣先が支払責任を負います。

(3)韓国
韓国でも労働者派遣が認められていますが、派遣可能な業務は法律で定められています。
派遣期間は原則として1年ですが、当事者間の合意がある場合は1回に限り延長できます。ただし、派遣可能期間は最長2年までです。
さらに、派遣対象業務以外への派遣や法定期間を超える派遣等の違法派遣が行われた場合には、派遣先に派遣労働者を直接雇用する義務が生じる場合があります。

ネガティブ/ポジティブイメージ

アジアでは、派遣労働やアウトソーシングが企業の人材活用手段として広く利用されています。近年は各国で派遣労働者の保護強化や制度の見直しを進める動きがみられます。

(1)中国
派遣労働は、企業の柔軟な人材活用手段として利用されてきました。一方、派遣労働者については、正規雇用労働者と比べて待遇が低く、権利保護も十分ではないとの指摘がありました。こうした状況を受けて、同一労働同一賃金の考え方の導入や派遣労働者の割合を原則として全従業員の10%以内に制限する規制等、関連法規の整備が進められています。
また自動車産業では、待遇改善や同一労働同一賃金の実現を求めて、派遣労働者が抗議活動を行った事例が報告されています。

(2)インド
Contract labour(契約労働者)が多くの企業で活用されています。契約労働は企業にとって人員調整のための重要な手段であり、多くの日系企業でも利用されています。2025年11月21日には、複数の労働法を統合した「Occupational Safety, Health and Working Conditions Code, 2020(労働安全衛生・労働条件法典)」が施行されました。同法典には契約労働者に関する規定も盛り込まれ、労働安全衛生や労働条件に関するルールが整理・統合されています。

規制強化の議論

アジア各国では、労働者派遣や労働者派遣に近い制度として、アウトソーシングや人材供給制度等を活用した柔軟な雇用形態がみられますが、近年は労働者保護の観点から制度の見直しや規制強化を進める国もあります。

(1)インドネシア
アウトソーシング労働者の保護強化に向けた制度の整備が進められています。インドネシアにおけるアウトソーシング契約は、主に次の2種類に分類されます。
業務委託:プロジェクトや特定の業務を別の会社に委任すること。
人材供給:顧客である企業にサービスを提供するための人材を供給をすること。

(2)韓国
1997年の経済危機から急回復する過程で非正規労働者が急増したといわれています。非正規労働者の雇用不安や労働条件の低さ等が社会問題となり、労働者保護に向けた法改正が重ねられてきました。2017年からは非正規労働者の直接雇用への転換が進められましたが、非正規労働者の割合は依然として高く、現在も格差の解消に向けた議論が続いています。